2009年10月号
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税理士法人さくら中央会計
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2009年10月号
人間疎外の金融経済
多くの中小企業が、昨年秋の世界金融危機以降、受注減・売上減に苦しんでいる。景気はいずれ上向くと思うが、回復するまでの危機的状況を耐え忍ぶだけの体力があるかどうかが生き残りの鍵を握っている。
そもそも世界金融危機は、全世界に拡大した資本主義経済が辿り着いた当然の結果であったとも云える。何故なら、資本主義とは資本(カネ)に一番の価値を置いているからである。以前は資本の中にも『モノ』や『ヒト』が重視されていたが、近年は『カネ』に焦点が当てられている。
世界経済がその『カネ』の移動を、地球規模で自由にしてしまったのである。自由になった『カネ』は利益を求めて世界中を瞬時に移動出来るようになり、少ない手元資金で大きな『カネ』を動かすことを可能にしてしまった。こうして大きな利潤を生みだす仕組みを作られたが、反面、そこには大きなリスクも生じた。
そのリスクは複雑な金融商品の陰に隠されていた。行き先は"破綻"である。金儲け主義による欲望の先が破綻を生みだしたわけである。
今回の世界経済の破綻は、深く考えると貨幣経済の破綻とも云える。
そもそも貨幣の原点とは、「物々交換は持ち運びに不便であるから、同じ価値の物を便利に交換するために考え出された手段」であり、物と物との交換であれば、その交換が終わった時点で終了する。
ところが、人と人との関係は、交換が終わっても「思い」「気持ち」のやりとりで成立しているので人間関係を深める。物の交換だけでは人間の存在をどんどん疎外していく。
最近の人の心は『カネ』の亡者となり、義理人情を忘れ、『カネ』こそが万能であると考える人が多くなった。従って、やれ勝ち組だ負け組だ、格差だ、競争だと云う、今の時代を代表する言葉が無味乾燥の形で表現されている。
金融危機を乗り越えるために必要なものは、もちろん金融(カネ)であることは確かであるが、もっと深くには、人と人との思いやりの中にあるのではないかと思う。之は、人生における幸福とは何かと云うのと似ている。
『モノ』や『カネ』が動くのは単なる結果に過ぎないと考えられないだろうか。「企業」を人間の体に、「利益」を血液に例えてみると、良い血液が体を巡ることで体は健全な活動を維持できるが、そのとき体は一体何がしたいのか。
企業の目的が正にここにある。その答えの中心に人の思いがある。
企業業績の数字のみを追い求める経営の姿だけではなく、共に苦労を重ねてきた同士や、会社を慕って入社してきた従業員が、この会社で働けて良かったと云えるような会社を作ることへの情念を大切にしたい。
会長 神谷 勇雄
会社の良し悪しを決める決定的要因は何?
先月、久しぶりに私が書いた著書「生き残りをかける建設業再生プランの実現」(中央経済社)が発行されました。原稿の作成で約半年、出版社との交渉や校正などで数ヶ月、結局、発行までには足掛け一年を要しました。苦労した分、著書の実物が手に届いたときは、大きな感動がありました。
著書の概要は、苦境に陥った建設業者が健全な経営に立ち戻るには、どのような手法で、どのようなポイントに注意しながら、経営の舵取りを行う必要があるのかを記載しています。販売業や製造業と違い、建設業は公共工事の割合が大きかったり、一件あたりの金額が多額であったり、業種的に特殊性があるので、一般的な経営手法では通用しない部分があります。そのあたりの注意点などについても記載しています。
とある銀行員との会話
先日、ある銀行員の方と話をする機会がありました。中小企業を取り巻く環境が中々好転しない中で、経営を良くするには何がポイントかという話になりました。銀行も単に預金を受け入れたり、融資をしたりという時代から、中小企業の経営内容にも深く関与するようになって来ました。
経営を良くするポイントは数多くありますが、結局は「経営者に尽きる」というところに話が落ち着きました。
物を作ったり、販売をしたり、製品を開発したり、人を採用したり・・・企業の活動はさまざまな部分がありますが、いずれも決定をし、指示を出して方向性を決めているのは経営者です。経営者がズボラであったりいい加減であったりすれば、企業経営が良いはずがありません。
私が考える良い経営者の条件
私も偶然、上記の著書の中で「経営を伸ばす経営者の条件」を書いています。
条件にはいくつもありますが、特に重要と思われる条件をあげると、
1)現状把握力・・・決算書の数値等で自社の状態を客観的に把握できる能力
2)決断力・・・判断を求められる場面で、きっちりと決断できる能力
3)実行力・・・考えを具体的に実行できる、または、させることができる能力
4)スピード・・・変化する環境の速さ以上のスピードをもって実行する能力
5)ねばり・気力・・・企業を良くすることを決して諦めないねばりや気力
景気が良いときには、このあたりのことが売上増加や利益に隠れ、表面化しないかもしれません。しかし、現状のような不況時には、経営者の考えや行動に企業の業績はおおきく左右されます。私も含めて、もう一度、自社の経営の舵取りが適正にされているか否か、見直してみる必要があるように思います。
「良い経営者がいるところ、優れた企業がある」
社長 神谷 正紀
絶対に潰れないしくみを作る10のポイント
亀井大臣のモラトリアム発言が最近話題ですが、先日税理士会の企業再生の研修で川野雅之氏の講義を受けました。そのレジメの中に「絶対に潰れないしくみを作る10のポイント」というものがありましたので紹介させて頂きます。()内の文は実際は幾つもありますが、私の解釈で1行にまとめさせて頂きました。
1.1つの得意先との取り引きを30%以内に抑える
(得意先の倒産による影響を最小限に抑える)
2.入出金のバランスを調整する
(倒産は全てキャッシュフローの破綻である)
3.支払手形を発行しない
(支払手形は待ったがきかず、企業再生を困難にする仕組みである)
4.手形割引を前提にした資金繰りを組まない
(手形を担保に借入をする仕組みである以上、割引に応じてもらえなくなったらアウト)
5.体力のない、また不良債権処理を実行しない金融機関から融資を受けない
(新規融資・書き換えができない、実質的な債務免除が受けられない)
6.金融機関の対応を誤らない
(個々の金融機関の対応・考え方を調べ、まず先に出口のシナリオを描く)
7.「借り返す」発想を捨てる
(親戚知人等利害関係者を増やさない、キヤッシュフロー経営を厳守する)
8.粉飾決算に手を染めない
(粉飾決算は麻薬と同じであり、再生の鍵は信用である)
9.その場しのぎの、出来もしない計画案を作文しない
(先ず返済ありきの計画案はナンセンス、未達の場合に経営能力が問われる)
10.人を育てる
(「俺がいないとこの会社は成り立たない」は経営面での最大のリスク)
最後に興味を持たれた方に川野雅之氏の著書を紹介させて頂きます。
「過剰債務に負けない中小企業再生の智恵」
川野雅之/著
TKC出版 価格:1,890円(税込)
宮島 勲
役員等の借入金を免除し、債務超過を削減させる
一部の製造業では回復の兆しがいくらか見えてきましたが、われわれ中小企業をとりまく環境は依然として厳しく、先の状況が見えないという経営者は少なくはありません。
今までにない不況によって企業の業績が急激に悪化し、債務超過(会社の資産よりも借入金などの負債が多いことをいう)の状態に陥る企業が見うけられます。金融機関からの融資の調達も難しくなり、社長やその家族などの個人財産を取り崩して会社の運転資金として貸付けるケースが増えております。
しかし、今後の状況からみても、多額の借入金がある企業にとっては将来的に借入金の返済が困難であるかと思います。
そこで債務超過の状態であり、又赤字の累積(繰越欠損金)がある企業は社長など役員からの借入金を放棄(債務免除)し、企業側では債務免除益として収入に計上する方法があります。
そうすることにより債務が圧縮され、債務超過の状態から少しでも脱皮することができ、決算書などの数値も良くなります。
又、社長などに対しても、貸付金が債務免除により消滅しますので相続税財産の対象ではなくなるメリットも生じてきます。しかし問題は債務免除の金額が企業側にとって利益となり法人税等が課税されることです。
そこで下記の項目に注意しなければなりません。
(1)繰越欠損金があれば、債務免除益は利益から相殺されますので、繰越欠損金の範囲内で債務免除を行う。
(欠損金がなければ課税の対象となります) 又、多額の借入金がある場合は事業年度ごと計画的に行っ
たほうが良いかと思います。
(2)役員会を行い、免除金額などを明確にして議事録などを作成する。
(内容証明も証拠として効果的であります。)
(3)債務超過の状況でない場合に債務免除を行った場合は増資とみなされ、その会社の株主間に贈与税が課税
されます。
以上のように対象としては債務超過の状態であり、かつ繰越欠損金のある企業となります。又、金銭的なリスクを背負いますので、社長など貸主(被害者?)は相当な意志決定(覚悟)が重要になります。
検討する際には担当者とよく相談するようにお願い致します。
中島 千博