税理士/長野県上伊那郡を拠点として活動する税理士法人さくら中央会計/宮田村、伊那市、駒ヶ根市

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新建新聞 [平成14年12月20日]

頑張れ建設業、生き残れ建設業 建設業再建ネットワーク/チーム2007

1.受注減少が利益に与える影響

 

  まず、工事量の急減によって自社の利益体質がいかなる状態に変貌するのか予測する必要かある。モデルケースとして、現在の完成工事高が10億円の標準的指標の建設業者が受注減少でいかなる利益体質に変貌するのか検証をおこなう。
  以上の試算により、現状で2100万円の利益計上をおこなっている建設業でも、
・完成工事高10%減少で600万円の黒字計上
・完成工事高20%減少で1980万円の赤字に転落
・完成工事高40%減少では6060万円の赤字に没落する
更には工事量のみならず、既に押し寄せている工事単価の低落も利益状態の悪化に拍車をかける。したがって、更に利益の低下や損失が拡大するものと予測される。これらの将来像は今後わずか1〜3年の間に現実のものと建設業者にのしかかってくるのである。小手先の賃金力ットや節約で追いつける状態ではないことが判明する。抜本的な構造改革をおこなうことが、長野県のみならず県内の建設業者自身にも求められるのである。

2.受注減少が資金に与える影響

 

利益は栄養、栄金は血液といわれる。栄養が乏しくともある程度の期間は生き抜くことができる。
ただし、資金の桔渇は即、建設業者のお葬式に通ずる。経営を維持継続するために、利益以上に必要不可欠な要素が資金なのである。
前記のモデルケースにおいて、平均借入金額3億5000万円(月商の4カ月分)を有し、返済年数が10年である建設業者が受注減少によって、いかなる資金体質に変貌するのかを検証する。
以上の試算により、現状2100万円の利益を生み出し、資金も年間600万円増加している建設業者でも、
・完成工事高10%減少で、資金は1440万円の減少
・完成工事高20%減少で、資金は3480万円の減少
・完成工事高40%減少で、資金は7560万絵の万円の減少が予測される。
現在、無借金であり、豊富な資金量を保有している建設業者は若干の時間的余裕があったとしても、平均的な財務状態の建設業者でさえ、わずか10%の完成工事高の削減で、多額の資金流出に見舞われることとなる。現状の借入金規模であると、約30%の受注量の減少で借入金額は月商の6カ月分を超え、倒産の危険信号が赤々とともることとなる。
以上の検証はあくまでも平均的な建設業者の指標に基づいて検討したものである。したがって、来年度において5%の受注量の減少にとどまる企業もあれば、20%の大幅な削減を強いられる建設業者も発生する。よって、現状は経営継続が可能であっても、わずか数年で壊滅的状態に陥る業者も多数発生する可能性が高い。しかも、経済全体が拡大基調であればまだしも、デフレ縮小傾向である。資金が不足すれば金融機関から借入という姿勢も通じなくなる可能性が高い。よって、建設業者にとっては、自己改革による生き残りの可能性を追求せざるを得ない。それも一刻の猶予も許されない、待ったなしの状態の中での緊急の自己改革が必要なのである。

3.脱・死刑宣告

 

特殊な技術や営業力、商品を有している建設業ならまだしも、ほとんどの建設業者は「右へ習え」の技術力であり、営業力である。工事量が削減されるからといって、急に福祉や林業への転業もはなはだ困難である。やはり、建設業という長年特化してきた事業を健全化し、生き残るのがまず本筋であると考える。他社がお葬式をあげるのを横目で見ながら、歯を食いしばり、生き残るしか方法はない。建設という仕事自体が無くなることは絶対にあり得ない。発注量に見合った業者数に均衡がとれるまで生き残ることが必要なのである。
今、建設業者として生き残りをかけ、とるべき施策、ポイントを以下に述べることとする。

(1)改革ののろしをいち早く掲げよ。
  工事量が少なくなっても、経営を維持継続できる財移体質を早急に確立することが必要である。建設業経営に悪影響を及ぼす原因を早期に発見し、手を打てば健全な状態に回復することは十分可能である。ただし、これらの症状が時間の経過とともに悪化を続け、しかも、更に他の悪化要因を併発すると急速に体力を失う。ガンも早期発見なら回復することが可能でも、末期ガンであれば回復困難であるのと似ている。財務体力の消耗と建設業倒産の関係を図示すると(図3)のようになる。
  一刻も早く、改革ののろしを上げ、健全化への具体的施策の立案、実行に着手することが必要である。

 

(2)現実を直視せよ。
  建設業の再建に携わり、多くの経営者が自身の会社の財務の実態を知らなすぎるのを常に感じる。実態の財移状態は相当痛んでおり、漠然とは自社の利益体質や貸金体質の厳しさ理解していても、「今までやってこれたから」「経理担当に任せておけば」といった抽象的な慢心を抱いている経営者が余りにも多い。実態を心底理解したときには、会社はお葬式寸前といったケースが非常に多い。現実とズレる経営者の認識を図式化すると(図4)のようになる。一致したときには「遅い」

 

(3)建設業の特殊性を理解せよ。
  たとえば、建設業には「前受金」の制度がある。この前受金がその工事の施工にのみ使われていれば良いが、金に区別はない。借入金の返済や社員の給料に消えているケースが往々にしてある。これを経営者は金が回っていると勘違いするのてある。お金の先食い状態である。この状態で工事量が減少すると、一気に資金繰りに行き詰まる。この他にも建設業特有の財務の特徴かある。建設業の金の流れなどの特珠性を十分理解し、対策を今から講ずることが何よりも必要である。

 

(4)建設業に民事再生法は適さない
  民事再生法が数多く適用されている。これは債務の一部をカットすることにより、債務の圧縮を図り、再生を図るという法的な再建手法である。ただし、建設業にとっては、民事再生法は適さない。財務状態がが苦境の企業に誰が仕事を発注するだろうか。リスクをかけて仕事を依頼する者などいないのである。
  建設業には「生きるか、死ぬか」の二者択一しかないのである。

 

(5)リストラに着手せよ。
  リストラというと、従業員を解雇することと勘違いしている経営者がいる。リストラとは「事業の再構築」であり、状況の変化に応じて、自社の事業や財務を立て直すことをいう。リストラを種類と意味を概略して述べると、以下の分野について再構築することをいう。

 

1.事業リストラ
不採算の事業からの撤退、得意分野や他社にない特徴を伸ばすこと
2.業務リストラ
工事利益の拡大など事業の効率化により収益力を強化すること
3.財務リストラ
借入金お圧縮、事業に不要な資産の売却等、財務の健全化を図ること
  これら3つのリストラがマッチングし、実行されて初めて健全化されるのである。小手先でおこなう給料カットや資産売却では、徐々に財務体力を見切り売りするだけであり、体力消耗のアリ地嶽に陥る。抜本的かつ全社的な改革の姿を描くこと、生き残りの保証の図式を実践することが必要なのである。

 

(6)きれいなお葬式をあげる。
  すべての建設業者が生き残りをかけ、必死の改革をおこなっても、お葬式をあげる業者が発生することは、現状から見て避けて通れない。ただし、お葬式をあげるとしても、きれいなお葬式でなければならない。高利に走ったり、夜逃げによる逃避、親族への連帯保証の依頼による犠牲者の増加、などは避けなければならない。事実、お葬式をあげた経営者でも、現在元気で明るく、一生懸命生きている方も多くいらっしゃる。法的倒産への裁判所への申立費用の確保など、きれいなお葬式をあげるためには、そのための手法を知らなければならない。
  とにかく頑張って、行き着くところまで全体力を使い果たし、最後はバッタリという事態だけは避けなければならない。お葬式をあげるにも計画か必要なのである。

 

(7)最後に
  過去、建設業者は恵まれてきた。不況であれば、景気対策や失業対策ということで発注量が増加され、皆が潤ってきた。だから、ドンフリ経営でも、談合による仕事の均等な分配も可能であった。しかし、状況は一変している。ただ頑張るだけでは生き残れない現実が目前に迫っている。
  建設業は「雑巾を絞れば、水がポトポト搾り出せる」状態がかなりある。製造業の比ではない。製造業がオイルショックや円高などの度重なる苦境を生き抜き、あえぎ苦しみながらも生き抜いてきたのと同様に、建設業者もこの苦境を乗り切らねばならない。限られた紙面ですべてを語ることは困難であるが、時代に合った経営技法を身につけ実践するしかない。長野県が財政再建団体に陥らないのと同様に、建設業者もとにかく生き残らなければならない。生き残れば明日がある。
  私は建設業者が好きでおる。建設業の経営者には義理人情が厚く、他人のことを思う気持ちが人一倍強い方が多い。日本人が忘れかけている日本の良さを建設業はもっている。だから、私は建設業者を心底応援したいと思っている。
頑張れ建設業/生き残れ建設業!

 

 

 

 

 

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